風の丘のオカリナ
穴
「私は怪我を負って、気を失っていたけど、このひとのお陰で助かったの」
ジュリがカナーンの顔を見て微笑んだ。信じ、頼った女の幸せそうな笑顔だった。
「私たちは恋に落ち、二人がともにいきることを祝福してもらうために、カリオの村へ向かったわ。見知らぬ世界へ迷い込んでとても不安だったけれど、カナーンはとても優しくて、私はこのひとについていこうと思った」
ジュリは恥ずかしそうに肩をすくめた。三十代後半ぐらいときいていたジュリは少女のようにみえた。
「カリオの村での出来事は私にとっておどろくことばかりで、おそらく自分は過去の世界に飛ばされたのだろうと思っていたのだけれど、突然、ヤミ渡航を取り締まるGメンが現れて、私は連行され、未来の世界へ飛ばされたことを知ったの。本当におどろいたわ。未来がこんなに文明からかけ離れた生活をする世界だったなんて」
「シブヤとはどうなんだ? 」
クンタは、ジュリのいた世界がどれほど文明が発達していたか、想像できなかった。
「それはもう、シブヤとも比べ物にならないほどよ」
「へんてこな食べ物とか、へんてこな乗り物とかシブヤよりもっとへんてこなのか? 」
ジュリは少し困ったような顔をして、「まあ、そうね。きっとあなたから見たら、全部へんてこでしょうね」
「それで、どうなったのだ、そのあと? 」
「ええ。私は元の2047年の世界へ連れ戻され、裁判にかけられたの。そして、流刑地として2093年の世界へやられた。私のつとめは、タイムマシンによる事故で空いてしまった穴を監視すること。検査当局の試算では、穴が完全に塞がるまで、約五十年かかるということだった。その間私は、その地に監視塔を築き、2009年と2093年を繋ぐ穴を隠し、どちらの世界の者も行き来できないよう、監視しなければならなかった」
「その穴はミライの住むあの塔のあたりにあるのか? 」
「ええ。あの塔の地下に」
「――気がつかなかったな」
「仕掛けがしてあるから、簡単には分からないはずよ」
「そうなのか。ジュリは嘘をつく人間ではないと知っているが、それでも俺にはまだ信じがたい気がする」
「いずれあなたもその穴を通って、元の世界へ戻ることになるわ。その時がきたら信じざるおえなくなるでしょうね」
クンタは何かわくわくするような恐ろしいような複雑な気分だった。
「塔で暮らしていたら、カナーンがやってきて、私をずっと捜していたと言ったわ。私は事情を説明して、塔を離れられないこと、カナーンとは一緒に暮らせないことを伝えたの。辛かった」
ジュリは透き通った青い目を下へ向けた。(つづく)
「私は怪我を負って、気を失っていたけど、このひとのお陰で助かったの」
ジュリがカナーンの顔を見て微笑んだ。信じ、頼った女の幸せそうな笑顔だった。
「私たちは恋に落ち、二人がともにいきることを祝福してもらうために、カリオの村へ向かったわ。見知らぬ世界へ迷い込んでとても不安だったけれど、カナーンはとても優しくて、私はこのひとについていこうと思った」
ジュリは恥ずかしそうに肩をすくめた。三十代後半ぐらいときいていたジュリは少女のようにみえた。
「カリオの村での出来事は私にとっておどろくことばかりで、おそらく自分は過去の世界に飛ばされたのだろうと思っていたのだけれど、突然、ヤミ渡航を取り締まるGメンが現れて、私は連行され、未来の世界へ飛ばされたことを知ったの。本当におどろいたわ。未来がこんなに文明からかけ離れた生活をする世界だったなんて」
「シブヤとはどうなんだ? 」
クンタは、ジュリのいた世界がどれほど文明が発達していたか、想像できなかった。
「それはもう、シブヤとも比べ物にならないほどよ」
「へんてこな食べ物とか、へんてこな乗り物とかシブヤよりもっとへんてこなのか? 」
ジュリは少し困ったような顔をして、「まあ、そうね。きっとあなたから見たら、全部へんてこでしょうね」
「それで、どうなったのだ、そのあと? 」
「ええ。私は元の2047年の世界へ連れ戻され、裁判にかけられたの。そして、流刑地として2093年の世界へやられた。私のつとめは、タイムマシンによる事故で空いてしまった穴を監視すること。検査当局の試算では、穴が完全に塞がるまで、約五十年かかるということだった。その間私は、その地に監視塔を築き、2009年と2093年を繋ぐ穴を隠し、どちらの世界の者も行き来できないよう、監視しなければならなかった」
「その穴はミライの住むあの塔のあたりにあるのか? 」
「ええ。あの塔の地下に」
「――気がつかなかったな」
「仕掛けがしてあるから、簡単には分からないはずよ」
「そうなのか。ジュリは嘘をつく人間ではないと知っているが、それでも俺にはまだ信じがたい気がする」
「いずれあなたもその穴を通って、元の世界へ戻ることになるわ。その時がきたら信じざるおえなくなるでしょうね」
クンタは何かわくわくするような恐ろしいような複雑な気分だった。
「塔で暮らしていたら、カナーンがやってきて、私をずっと捜していたと言ったわ。私は事情を説明して、塔を離れられないこと、カナーンとは一緒に暮らせないことを伝えたの。辛かった」
ジュリは透き通った青い目を下へ向けた。(つづく)
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テーマ : 自作小説(ファンタジー)
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