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ムサシの桜

 お茶を入れなおそうと急須を盆にのせ、たちあがりかけたところだった私は、中腰のまま息子が何を言いだしたのかと耳を疑った。

 「納屋の奥の部屋、開かずの間があったでしょ。古い本棚の赤い本を偶然開いてみたんだ。そしたら、それ、本じゃなくって、鍵入れになっていた。それが、開かずの間の鍵だったんだよ」

 父の一周忌を終えたこともあり、手つかずだった遺品の整理を息子と二人ではじめた。息子には納屋の整理を頼んでいた。父は宮本武蔵に興味を抱いていただけでなく、メカにも詳しかった。高校で物理の先生をしていたことも影響しているかもしれないが、納屋にこもって一日中銃機械いじりをして、よく母を呆れさせていたものだった。……だが、まさか……タイムマシン?

 いや、そんな、騙されてなるものか――。

 「かっこいいんだよ。F1カーを二台合体させて、青い流線型の車体で 、しかも二人乗り。スタートした瞬間は体だけ置いてかれたみたいな感覚だったけど、流動する雲の中を一瞬くぐって、次の瞬間にはお屋敷の庭に移動してたってわけ。すっげー! 」

 息子は興奮して両腕を振り回した。

 私は目の前にいる客人を、きっと失礼なくらい凝視していた。

 禿げていると思ったのは月代? 着物姿だったのはそのせい?

 この人が正真正銘の剣豪宮本武蔵

 と思ったと同時に急に心臓の動きが激しくなった。手が震えていたと思う、盆をやっとという状態で下に置き、右手を口にあてた。

 「あのら、みひゃもろむらひひゃんれごりゃいまひたか――」

 言われてみれば、姿勢の良さといい、険しい顔相、眼力、体中から発せられる迫力、ただ者ではない。

 私は背筋が寒くなるのを感じながらおぼつかない足取りで、襖の縁にすがりついた、つもりだった。

 次の瞬間、何か黒い影が背後で動いた気がした。

 私は縁に掴まり損なって前のめりに倒れたのだったが、それを誰かが背後から両脇をかかえてくれていた。

 「大丈夫でござるか? 」

 その声に振り返り、射抜かれたかと思うような視線に出あって、私はどきっとした。

 ムサシの肩の向こうに口をぽっかり開けて惚けたように固まっている息子の顔が見えた。ムサシは応接台を一瞬で跳び越えて私を助けてくれたのだった。(つづく)
 
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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