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ムサシの桜

 私は半ばムサシの手を振り払うようにして廊下へ出、台所に駆け込んだ。実際にはかなりヨタヨタして台所に倒れ込んだといった方が近い。

 有名人に出合ったときのような興奮もあったが、それよりも、剣豪だ、その手で幾人の人を斬り殺したのだろうと思うと恐ろしかった。

 間近で見たムサシの眼は鋭くて、それだけで心を貫かれたような衝撃があった。

 私は流しに両手をついて心を落ち着かせようとした。

 開けっ放しにしていた窓から風が吹き込み、顔をなでた。空には星がまたたき、月が下の方だけ見えた。

 「大丈夫? 」

 いつのまにか背後に息子がやってきていた。

 「今日は泊まってもらおうよ」

 私には息子の暢気さにあきれた。

 「だめよ」

 「なんで? せっかく来てくれたのに、もっと色々話をききたいじゃないか! 」

 「あの人はね、人を何人も殺した人なのよ。怒らせたらどうなるか――」

 息子は笑った。

 「人を殺したっていったって、あの時代はそういうことがあたりまえだったんだし。それに、僕色々な話をしたけど、とても穏やかで普通のお爺さんと変わらないよ」

 「それでもお母さんは不安だわ。帰ってもらいましょう! 」

 「お祖父ちゃんだって仲良かったんだよ。お祖母ちゃんが生きてたころはよく泊まりにきてたっていってたよ」

 「お母さんが? 」

 父だけでなく、母もムサシと交流があったのだ。

 私は母の葬式の時のことを思い出した。

 遺体の前で泣き崩れていた私の背後で声がした。

 「死してなお魂は生きる」

 混乱していて気にもとめなかったが、てっきり父が言ったものと思ったけれど、あれはムサシの声だった。

 母が亡くなった日、ムサシは家にいたのだ。私たちに姿を見られないようにひっそりと。

 時が経つにつれ、ムサシの言葉は私の心の中で存在をましていった。

 もう母には会えないが、母を思い出すことはいつでもできる。そう思えば私のこころは楽になった。

 ムサシはそんな人なんだ。(つづく)

 
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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