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ムサシの桜

 その夜は仏間に泊まってもらった。

 父や母が親交をもった人である、優しい普通のお爺さんだと息子が感じたままを信じてもやりたかった。

 納屋の開かずの間から出てきた資料によれば、父はタイムスリップを五・六年前に完成させたらしい。じっさいに見るタイムスリップは息子が絶賛するだけあって、美しい車体をしており、工学部の学生である息子には多少なりわかるらしいが、私にはよく理解できない付属の機器も、それらしく感じられた。

 私たち親子は、夫を亡くしたあとも、熊本市内で借家暮らしをつづけ、父が亡くなった後もそのつもりでいた。高校の国語教師をしている私は、阿蘇にあるこの実家から通勤するより市内にいた方がずっと楽だったし、大学に通っている息子にしてもそうだった。春休みのこの時期に、父の家の片付けを済ませ、夏頃までには、買い手をみつけられればと考えていた。

 しかし、タイムマシンなるものが残っていたとなれば、そう簡単にはいかないだろう。

 父がこれを世に出さなかったことを考えると、私たち自ら解体すべきものなのかもしれない、いや、タイムマシンはこののちも残してほしいと父は考えていたのかもしれない、とすれば、この家は売ることはできない。

 父が、私たち親子にこのことを内緒にしていたのには、私たちを巻き込みたくないという思いがあったにちがいない。そして、何よりも、歴史を変えるようなことになっては困ると思ったのだろう、できるだけムサシとの関わりを自分たち夫婦だけにとどめておきたかったのだ。

 その辺の事情も、ムサシは理解していた。だからこそ、母が亡くなったときもその場にいたにもかかわらず、姿をあらわさなかったのだ。

 父がどう考えていたかは定かではないが、私たちは知ってしまったのだ。

 ムサシの話も聞く必要があると、私は思った。(つづく)

 
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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