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ムサシの桜

 「快適でござるな。この輿は。馬なみの早さ、さりとて馬ならせいぜい乗れるのは二人というところ、この輿なら、四人は乗れるでのう。馬のようにつなさばきをするものが一人おれば、あとの者は寝ていても困らぬ。実に奇妙な輿じゃ」

 宮本武蔵は、豪快に笑った。息子のすすめで、父の普段着を借りていたムサシは、黒のゆったりしたジーンズをはき、長袖の白のTシャツの上に、みどり地の格子のシャツをはおっていた。頭には息子の春用のニット帽をかぶっていたので、見かけはこちらの時代にすっかり馴染んでいる。

 だが、車の中のムサシは見るもの全てが新しいのか、子供のようにはしゃいでいるのだった。

 父の家には幾度となく訪れていたようだが、父の家のある阿蘇を出たことはなかったようだ。

 ムサシを連れ出してしてしまった、父がおそらくおそれてしなかったことを、してしまう不安を感じたが、ムサシの無邪気な様子をみていると、そんな心配は吹き飛んでいく。

 「お母さん、あそことめて! コンビニだよ」

 助手席の息子に促されて、私はコンビニへと車を乗り入れた。花見用の食べ物はもってきていたが、飲み物がなかったので、買うためだった。

 車の鍵を閉めて、駐車場を歩く二人の姿は、やはりどこか不思議な光景に見える。父が生きていたらこんな風景だったかと考えればそうではない。ムサシは六十ぐらい、当時ならもの凄いお爺さん、にしては背筋が伸びてかくしゃくとしている。亡くなる前の父は少し背が縮んだようで、いまのムサシよりずっと老けてみえた。息子と知り合いのおじさんが仲良く歩いている感じだ。

 なんだか微笑ましいと思いながら二人の背中を追いかけていく。

 もう少しで息子に手が届くという距離まできたとき、息子の少し前を歩いていたムサシの背中が急に跳び上がり、私の頭上を越えて後ろへ着地した。

 振り返ると、ムサシは見事着地を終えて、まるでくせ者にでも出くわしたように、両手を前に少し腰をかがめ、かまえているのだった。

 駐車場には五六人の老若男女がいたが、皆があっけにとられてムサシをみている。コンビニの店内にいた者も数人がムサシに気づいたようすで、じっと眼をむけていた。

 かまえたままのムサシは何事もおこらないのに安堵したのか、ふぅと息を吐いて、普通に戻ると、「なんと、ひとりでに開く扉でござったか」と言って笑った。

 ムサシを見ていた人たちも、なんだ自動ドアに驚いただけかとすぐに気づき、手に取った本に目線を落としたり、冷蔵庫のアイスに手をのばしたりしたのだった。(つづく)

 

 
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テーマ : 自作連載小説
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