スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ムサシの桜

 「無理、無理、無理……」

 引っ張られていく女性は小声でそう言った。まだ、若そうだった。金髪に染め、アップにした髪にハイビスカスの花のついたヘアピンをとめ、オークル系のファンデーションにくっきりと黒いアイラインをえがいた眼はときに怯えたようにしばたたいた。恐怖に圧されたとき、ひとはへらへらしてみえるものなのかもしれない、その表情は笑っているようにも見えた。

 もう一人の娘のほうも同じくらいの年ごろだろうか、このこは髪は黒髪だったが、服は肩の大きく開いたゴールドの肩紐つきの、黒のひらひらした薄手のチュニックにショートパンツだった。このこは泣きそうな顔をして、下を向いたまま、男たちにひきずらていた。

 「その手を離されよ!」

 二人の女性を取り囲んで騒ぐ男たちの背後にムサシが立っていた。

 男たちは振り向いて、声の主が、ニット帽にトレーナーGパン姿の爺さんだったのを知って、あざ笑うかのような表情を浮かべた。

 「うるせえ、じじいは入れ歯でも洗って引っ込んでろ」

 背中にシルバーの鷹の模様が入った紺のポロシャツを着た男が、下にずれたサングラスの上の方から見上げるようにして叫んだ。

 「聞こえなんだったか? わしは娘ごの手を離されよともうしたのじゃ!」

 ムサシは仁王立ちして右手で男を指さした。

 「なんだとぉ、おれさまは人に指図はされねえんだよ。怪我したくなかったら、すっこんでろ!」

 サングラスの男はムサシに眼をとばした。
 
 「怪我をするのはそうほうじゃ。いますぐその手を放たれよ!」

 ムサシは毅然としてその眼を男に向けていた。

 男たちはムサシに嫌悪の眼を向け、構えるにつけ、あたりは騒然とした状態になった。周りで花見を楽しんでいた他の者たちがただならぬ空気に圧されて、ついには席をたち、とばっちりをくわない場所へと移り、ムサシと男たちのやりとりに耳をそばだてた。

 ――静寂があたりの空気を支配した――。

 うす桃色の桜の花片が風に煽られて、ムサシと男たちの上に雨のように降りそそいだ。(つづく)

 

 
スポンサーサイト

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
プロフィール

きなこ

Author:きなこ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。