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ムサシの桜

 アルコールがはいると、饒舌になるのが私の悪い癖で、口から滝が流れおちるように喋りつづける。

 「みやもっさんって、お風呂嫌い?――でも、うちのお風呂には入ってますよね!」
 
 宮本武蔵風呂が嫌いで、臭うほどだったと父が言っていた。それは本当なのだろうか? 他にも色々疑問に思っていたことがある。なんとなく聞きづらい雰囲気をかもしだしていて、聞けないでいたのだ。アルコールの力は恐ろしい。

 ムサシは少しの間、杯をもったまま静止し、にこっと笑って、「さにあらず。風呂は大好きじゃ」と言った。

 「でも、あまりお風呂には入らなかったって……? 」
 
 「――幼きころ、たしかに風呂にはいるのがいやでござったな。風呂にはいる必要を感じられず、それよりは別のことをしてすごしたいと思うておった。しかしのう、湯に浸かるというのは気持ちがよいということに気がついてからは、風呂は心をほぐす薬のようじゃと思うようになった」

 「では、お風呂に入らなかったというのは嘘? 」

 「いや、事実じゃ。――あれは私が二十代のころだったかのう。山の温泉につかっておったときのことじゃ。私の名はそれなりに世に知られており、我こそは倒さんとつけねらうものもおった。湯につかって気持ちよくなっておった私は、そういう輩に、不覚にも、ふいをつかれて斬り殺されそうになった。幸いに闇夜でござったゆえ、相手は私の首を狙ったつもりであろうが、肩を負傷したたけですんだ。以来、風呂には入らぬと決めた」

 あの時代、腕に覚えのあるものもないものも、食い扶持をもとめて、あるいは名声をえるために、強いと噂されれば、その者との試合を求めた。当然そこに恨みなどなく、ただ、剣客というだけで――。

 ある程度名をなした剣客は下からはい上がってこようとするものに狙われる。ムサシもそうだったにちがいない。――風呂にはいることもできないとは、まさに修羅の道だ。

 「うちなら安心だね」

 息子はそう言って、缶ビールを揺らし、残りが少しになったのを確認した。

 ムサシは陽気に笑ってかえした。

 私は空になったムサシの杯に焼酎を注ぎ、お湯でわった。

 「そういえば、絵なんかもかいちゃったりして――?」
 
 満杯になった杯を見たムサシはかるく頭をさげて礼をしめした。

 「絵は、心を映す鏡のようなもの。強き心を持ち続けるために、そのような絵を描く」

 宮本武蔵の頭の中は常に剣のことでいっぱいなのだ。

 「とても一途なんですね」

 「――剣以外に何もなかった、だけじゃ」

 そう言ってムサシは笑った。

 「花の絵は描かなかったとか……?」

 「……花は心の執着をあらわす」

 「――執着、えっ、どういう意味? 」

 ムサシはふっと笑っただけで、何も答えなかった。(つづく)
 
 
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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