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ムサシの桜

 「では、ひとつご披露いたそう」

 宮本武蔵が立ち上がって、手をあわせた。

 何事がはじまるのかと私はムサシの背中をまじまじと見た。その背はまっすぐと伸び、とても年寄りとは思えない。

 ムサシは草履をはくと、桜の木の下の少し平らになった場所へ行き、中腰の姿勢をとった。

 その瞬間にムサシが舞を踊るのだと私は直感した。

 「昨日は東山地主の桜を一見仕りて候。今日はまた西山西行の案室の花。盛なるよし承り及び候ふに」

 ムサシは謡いながら能を舞う。これはたしか、『西行桜』ではなかったか?

 「埋木の人知れぬ身と沈めども。心の花は残りけるぞや。花見んと群れつつ人の来るのみぞ。あたら桜の。とがには有りける」

 毎年花見にやってくる者を受け入れていた西行が、今年は静かに送りたいと思ったが、やっぱり花見に人がおしよせた。これも桜ゆえのことだと嘆く。

 「おそれながら此御意こそ。少し不審に候へとよ。浮世と見る山と見るも。唯其人の心にあり。非情無心の草木の。花に浮世のとがあらじ」

 いや、人のこころが花をめでたいと思うだけで、非情無心の植物である桜に罪はない。

 「夢は覚めにけり嵐も雪も散り敷くや。花を踏んでは同じく惜む少年の春の夜は明けにけりや。翁さびて跡もなし翁さびてあともなし」

 一夜明けて、花も散り、翁の姿も見えない(どこへいったのだろう)。

 花を愛し慈しんだ西行の心が詠まれた謡いである。

 ムサシは舞って酔いがまわったのか、少し足下がおぼつかないようすで歩いてきて、照れた表情を浮かべもとの席についた。

 私も息子も拍手喝采をムサシに送った。(つづく)
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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