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 帰るまえに、ムサシは仏壇で手を合わせた。父にお別れをするためだった。

 息子はマシンのようすを見にいくといって、倉庫へいっていた。

 私はお茶をいれて、ムサシの好物のかるかん饅頭をそえた。

 仏壇にまいったあと、ムサシは座卓へ座りなおして、お茶をすすった。

 「ご迷惑ではなかったですか。ながいことお引き留めしてしまって――」

 この数日、息子は上機嫌だったが、ムサシはどうだったのだろう。やはり迷惑だったのではないか。

 「お父上にお別れもできもうした。お父上はそなたや息子どののことを案じておられたゆえ、わたしも元気にくらしておられるようすに安堵いたした。お父上も安心されたことだろう。――私にとっても、楽しい気楽なときをおくらせていただいた。かたじけないことだ。迷惑ななどということはござらぬ」

 「また、遊びにいらっしゃってくださいね」

 「そうでござるな。考えておきましょう」

 ムサシはかるかん饅頭に手をつけた。雪のように白い饅頭がムサシの大口におさまった。

 かるかん饅頭を呑み込んで、お茶を二口三口飲んで潤したあと、「――不器用でござってな」とムサシは小さな声で言った。

 えっと私が首をかしげると、ムサシは「カエルことのできない質でござってな」とこたえた。

 言っている意味が私にはよく分からなかった。どう不器用で、何をカエルコトができないというのだろうか。

 ムサシは寂しそうな眼差しで、庭に眼をやった。

 昨夜私たちが宴をもうけた、桜のある方角を向き、ここからその桜は見えていないのだけれども、まるでそれが見えているかのようなようすで、じっと眼をとめた。

 「西行のような生き方もあろう」

 独り言のようにムサシはつぶやいた。

 世阿弥のような生き方――。

 といわれても、ぴんとこない。ムサシは何を思っているのか。

 「まことに、楽しいひとときでござった――」

 かみしめるようにムサシは言った。

 「私も――」

 私は顔が熱くなるのをおぼえた。(つづく)
 

  
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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