スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

風の丘のオカリナ

 約束

 父ハルヒナのはからいで、クンタの一人前の男としてのお披露目の宴がひらかれた。

 終始ハルヒナは機嫌がよく、村人の祝いの言葉やら挨拶に応対していた。

 クンタは森のはずれの崖地での出来事を誰にも話せないまま、熊を仕留めたことへの讃辞の言葉を、背中が痒いような思いで受けていた。

 宴も半ばになったころ、ハルヒナがクンタの傍へ戻ってきて座った。

 「おまえもこれで身を固めることができるな」

 そう言ってハルヒナは遠くへ目を向けた。ハルヒナの視線の先には、かいがいしく酒を注いで廻るイタナの姿があった。

 イタナは父方の遠い親戚にあたる娘で、ハルヒナとイタナの父親は同い年ということもあって、仲の良い幼友達でもあり、イタナは父親同士が約束を交わしたクンタの許嫁であった。

 イタナはしんの強いおとなしい娘だった。クンタはイタナのことを好ましく思っていたので、この婚姻に異議はなかったが、身を固めることなどまだ先のことだと考えていたので、急な話にうろたえた。

 クンタにはまだやり残したことがある。謎の女がベーと呼んでいたあの片耳の灰色熊を、必ず仕留めるとユンマ約束していたのだ。

 どうあってもこれだけは婚姻前にかたづけておきたい。

 クンタはあらためてそう思った。

 「婚姻の話は私も承知しております。ただ、その前にいま一度、私が狩りに行くことをお許し下さい」

 「――クンタ、私は、おまえが灰色熊ではない熊を仕留めて帰ってきて、内心ほっとしたのだよ。逸って、おまえが命を落とすようなことにでもなったら、残された私や母さん、そして兄弟がどんなに悲しい思いをすることだろうと、心配していた。無事に帰ってきて、本当によかった。灰色熊は逃げはせぬ。まだ狩人としての腕を上げてからでも、遅くはあるまい」

 「ですが、私は必ず仕留めるとユンマと約束したのです。ユンマは私の大事な友、約束は破れません」

 「ユンマはその約束を承知したわけではなかろう。おまえが一方的に交わした約束を、破るもなにもなかろうに?」

 「ユンマの様子はご存知ですね。あの宿敵、灰色熊を倒してこそ、ユンマの心が晴れるというもの。ユンマをこのまま失うような事態だけは避けたいのです。どうか、私を行かせてください」

 クンタはハルヒナに頭を下げた。

 ハルヒナは困った様子で宙をにらんでいた。

 「――仕方あるまい。ただし、仕留められずとも、蝉のなく時期には戻ってくること。それが条件だ」

 「ありがとうございます」

 クンタは空を見上げた。満点の星がクンタを見下ろしていた。(つづく)

 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
プロフィール

きなこ

Author:きなこ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。