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風の丘のオカリナ

 まじない婆

 カリオのまじないしは女である。畑の種まきの時期や、収穫の時期などは勿論、今年は雨が多いから水害にはきをつけよとか、気象のアドバイスなどもする。村長が狩人たる男たちの長であるのに対し、まじない婆は畑を耕す女たちの長なのだ。他にも薬を調合して簡単な病気なら治してしまう。

 科学的な知識を必要とするため、英知ある者にしかつとまらないのだった。

 ハルヒナクンタが洞穴にあるまじない婆の家を訪ねたとき、婆は朝食の最中だった。かつて嗅いだことがない強烈な匂いが入り口のあたりまで匂っていた。

 失礼といって中へ入っていったクンタとハルヒナは唖然とした。かなり広いと思われる部屋の中は足の踏み場がないほど散らかっていたからだ。脱ぎ捨てられた服の下には食べ物の滓やらが黒く茶色くなって見えた。

 「誰じゃ? 食事中にきおって――」

 「突然おしかけて、申し訳ない。ハルヒナとその息子、クンタだ」ハルヒナがそう言うと、婆は強烈な匂いを放っている元である赤いスープをテーブルに置いて、二人を交互によく観た。

 「今日は頼みたいことがあって、きた。人を多弁にする薬というのが欲しい」

 「人をタベンにする? 」

 婆は近くの茶色に変色した布で口をぬぐって、首を傾げた。

 「――おおう、心の中の言葉を吐き出す薬のことじゃな」

 「――それだ」

 婆は白い歯を見せて、にっと笑い、「高いぞ」と言った。

 「豚を一頭持参した」とハルヒナが言うと、好物なのか婆は顔を綻ばせ、立ち上がって二人に座るよう案内した。

 「あたしゃ、タケちゃんにも天才と言われたまじないしじゃからの」と婆はしわくちゃの顔で笑ってかえした。

 クンタがタケちゃんって誰ですとハルヒナにそっと尋ねると、それは長老のことだということだった。長老と婆は同い年の幼なじみだったのだ。

 「あらゆる薬の知識が、この頭の中におさまっておる」と婆は胸を張らせたが、その顔が急に陰って、部屋を出ていく。

 あとをついていくと、書棚のおかれた部屋へと入っていった。片っ端から本を引き出してめくり、あっという間に、床一面が本で埋め尽くされた。

 「あった。これじゃ」

 という婆の安堵した顔を見てクンタは不安になった。

 「おい、大丈夫なのか? 」

 「ふん。覚えておったが、念のために調べただけじゃ」

 と開き直ってみせる婆にクンタは呆れた。

 婆は小柄だが、動くと早い。火を焚き、鉄のつぼをかけ、その中へ木の実やら豆やらを次々と放り込んでいく。極めつけは「イボトカゲじゃ」と言って、籠に飼っていた蜥蜴の中から一匹を取り出して目の前で串刺しにして焼きはじめたのだった。

 「ウンタとかいったの、洞穴を出て右に行ったところにあたしの畑がある。そこで、夜空の雫をとってまいれ。片方の掌いっぱいにのるほどあればよい」
 
 と言って本の花の絵をクンタに指し示した。

 「俺はクンタだ」と言ったが、婆は薬を作るのに夢中で聞いてはいない。

 「本当に大丈夫なのか? 」とクンタは言って部屋を出た。

 畑がまたクンタを唖然とさせた。日当たりの良い場所に、仕切られた長方形の畑らしき場所には雑草がはえ、どこにその夜空の雫があるのかわからないのだった。

 やれやれと思いながらクンタは草をかき分け、青い小さな花をさがした。

 クンタの持ってきた夜空の雫の青い花びらをつぼに入れ、婆は「あとは煎じて一晩おき、明日の朝に漉せばできあがりじゃ。明日の朝、また来るが良い」と告げた。

 クンタとハルヒナは多少の不安を抱えながら婆の洞穴をあとにした。(つづく)
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テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

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