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風の丘のオカリナ

 梨のケーキ

「君がクンタくんか。私は七号、そして十九号

 青い髪の男がそう言って、傍らのショートカット黒髪の女性に手を向けた。どうやら彼らは固有の名前でなく、番号で呼び合っているようだ。

 「ミライ、いつものようにの点検を、十九号がいく」

 七号が顔で合図すると、十九号とミライは部屋を出て行った。穴の点検は、毎回行われる監視員の任務らしい。

 居間にいるクンタは、七号を前に、ダイニングテーブルに腰掛けて、紅茶を飲みながら、返事をした。 
 テーブルの上には薄紫色のケーキが皿にはみ出しそうなくらいのっている。ミライ特製ののケーキだ。うっすらと青みがかったスポンジには、これまたミライ特製の梨のお酒がたっぷり染みこませてある。梨酒の甘い香りと、スポンジの芳ばしい香りが部屋いっぱいに漂っていた。

 七号は無表情に「質問に答えろ」と威圧的に言った。

 「さきほど、狩りから帰りましてね。これが夕飯がわりです」

 クンタはカットされたケーキをひとつかみして、口に押し込んだ。スポンジから薄紫の液がにじみ出して、クンタの口からもあふれ出た。そのあまい香りが七号の鼻先を包んだ。

 七号の薄い唇が少しだけ開いて、すぐに閉じたのをクンタは見逃さなかった。

 「それで? 」とクンタは七号の話を促す仕草をしてから、また二個目のケーキに手を伸ばした。

 「君の知っていることについて話を聞きたい。特に穴についてだ」

 そう言っている七号の目がケーキを追っていた。

 クンタは二個目のケーキを口に納め、呑み込むと、手についた梨酒を嘗めた。

 「たとえばどんなことだ? 」

 「穴の向こうの世界について、君が移動した距離を知りたい」

 「そうだな――」クンタは考えるように見せて、すかさず三個目のケーキに手を伸ばした。

 「シブヤ、トウキョウエキ、それ以外はいってない」と言うのももどかしそうに、ケーキを口に入れる。

 七号はごくりと唾を飲んでから「――本当か? 」と聞いた。

 「トウキョウエキとシブヤまでの間を、いったりきたりしただけだ」

 クンタは最後の一個を手に持つと、目の前に持ってきて、にっこり微笑んだ。

 そして、今度はゆっくり味わうように時間をかけて食べる。

 「その間、何人の者と話したか? 」

 「何人? そう言われても……ちょっと考えさせてくれ。そうだ、このケーキでも食べて待っていたらいい」

 「えっ。いや、勤務中だし、それは困る。それにもうないじゃ……」

 「――そうか――美味いんだけどな」

 そう言うとクンタは立ち上がって、小型エレーベーターの前へ行き、扉を開けて、中からさきほどと同じ梨のケーキののった皿を一皿抱えて席に戻った。そして紅茶をお代わりした。

 「やっぱり、どうだ? 」

 クンタはケーキの皿を七号の前に押しやった。

 「その質問、ちょっとの間、考えさせてもらおう。というわけで、ごゆっくり」

 「いや、いや、そういうわけには……」
 
 「ミライのやつ、沢山作りすぎたっていってたんで、ご心配にはおよばない」

 「そうか、なら、せっかくの手作り、ご相伴させてもらおうか」

 その時クンタは心の中でにやりとした。(つづく)

  
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