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風の丘のオカリナ

 願い

 崖地は早朝から熱気を帯びて暑い。太陽に近い崖の上にはあちこちに陽炎ができていた。

 焼けた塔の黒く無惨な残骸に日が差している。それに重なるように陽炎ができ、何かが揺れている。

 クンタは腕枕していたミライの頭をそっとはずし、上体を起こした。ミライは眠っていて、起きる気配はなく、ほっとした。

 揺れていたのは、人だった。近くに流線型の乗り物があり、タイムマシンだと気づく。奴らがやってきたのかと腕に力が入ったが、それはカナーンだった。

 カナーンは所在なさそうにタイムマシンによっかかって、どこを見るという風でもなく上を向いていた。

 2047年から戻ってきたのだ。一人で――。ジュリが一緒でないのが、何かよからぬ想像をおこさせる。

 クンタは崖を下り、塔のあった崖へ行った。

 カナーンの横に並んで、「お帰りなさい」と声をかけた。

 カナーンはああと気の抜けた声で言うとクンタを見た。

 「いつ帰られたのです? 」

 「明け方だったかな」

 ジュリのことを聞こうかと思ったが、カナーンのようすから、言葉に出せない。

 「――ジュリは死んでしまったよ。射殺された。……どうして……こんなことがあっていいものか……」

 カナーンは頭を手で押さえ身もだえした。

 「ミライには……何と言おう。どうしたら良いのだ」

 クンタはカナーンの肩に手を置いてからカナーンを抱いた。帰ってきたのにミライをおこすこともできずに、彼は苦しんでいたのだ。

 「ジュリは自分が未来で見てきたこと、終焉を迎えた理由、それら全てを政府が隠していることを、全てネットにのせ、全世界にメッセージを送ったよ。彼女は毅然として美しかった。最高に美しかったな」

 カナーンはため息をついて前を向き、差し込む陽日に目を細めた。

 「大事な櫛を忘れてきたので、取ってきて欲しいと頼まれてね。タイムマシンまで取りにいって、そこで不覚にも私は倒れてしまった。ジュリが痛み止めだとくれた薬は眠り薬だったのだよ。しかも、櫛はタイムマシンに私を行かせるための嘘だった。薬が効き出す時間とタイムマシンのタイマーが作動する時間、全て彼女が計算して仕組んだことだった。私はまんまとそれにひっかかった。タイムマシンの中で、体の力が抜けていき、消えいく視界の中で、奴らがジュリのいる建物に入っていくのが見えた。そして何発もの発射音を、聞いた。だが私の体は動かず、意識もなくなったのだ」

 カナーンの唇が微かに震えた。

 「目が覚めたらここにいた。はじめからジュリは一人でいくつもりだったのだろうな。一人で何もかもやる覚悟だった、とは――切ないじゃないか」

 「そうですね。いったいジュリにどんな罪があったというのでしょう。俺には、ジュリに罪があるとは思えない」

 「私も、そう思う」

 「こんなものない方が良いんだ」

 クンタはタイムマシンを憎々しげに見て、右手で叩いた。

 「私たちがネットを流すために行った場所は、田舎町だったがね。何でも揃っていて、本当におどろくことばかりだった。この調子でいくなら都会はどれほどのものだろうと、恐ろしくなるほどだったよ。東京で車に乗ったとき、こんなすごいものが存在することに感激したものだ。こいつが悪いんじゃないってことは分かっている。いくら便利なものでも、使い方を間違えれば凶器になる。こいつを作って、利用しようとした人間が、こいつを使いこなせなかったんだな」

 カナーンはタイムマシンのブルーメタル輝く車体を手でなぞった。

 「こいつは私たちには使いこなせない。我々の生活を脅かす存在でしかない」

 「壊しますか? 」

 「そうだな」

 そう言ったクンタの声が泣き出した蝉の声に打ち消された。(つづく)
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テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

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